転職活動を始めたとき、多くの人が必ず一度は悩むのが「転職理由をどこまで話していいのか」という問題です。履歴書にはどのくらい書けばいいのか、職務経歴書にはどの程度踏み込んだ方がいいのか、そして面接では本音をどの範囲まで話していいのか。ネットで調べると、正直に話せという意見もあれば、本音は隠しておけという意見もあって、読めば読むほどわからなくなってしまいます。
ここでは、履歴書・職務経歴書・面接という三つの場面ごとに、「どこまで」「どうやって」転職理由を伝えればいいのかを整理していきます。僕自身の失敗談もたくさん挟みながら書いていくので、「あ、これ自分もやりそう」と思ったところは、ぜひ自分のチェックリストに入れておいてください。
まずは「転職理由・退職理由・志望動機」の違いをはっきりさせる

最初に整理しておきたいのが、「転職理由」「退職理由」「志望動機」の違いです。ここがごちゃごちゃになっていると、どこに何を書けばいいのか分からなくなりますし、話しているうちに自分でも何を言っているのか分からなくなります。
退職理由は、その名の通り「なぜ前の会社を辞めたのか」という事実の部分です。会社都合なのか、契約期間の満了なのか、自分の事情なのか。ここは基本的に過去を説明するエリアです。
転職理由は、「なぜ転職という選択をしたのか」という、少し広い意味を持ちます。前の会社のことだけではなく、「今の働き方のままではこういう不安があった」「もっとこういう形で働きたくなった」という自分の気持ちや考えが入ってきます。
そして志望動機は、「なぜたくさんある会社の中から、この会社を選んだのか」という話です。転職理由が「今の環境から離れたい理由」に近いとすれば、志望動機は「次の環境に近づきたい理由」といえます。
整理すると、退職理由は過去の事実、転職理由は過去から今までの自分の変化や気づき、志望動機は未来に向けた選択の理由です。この三つが頭の中でごちゃっと混ざっていると、履歴書には「転職理由」を書いて、面接では「退職理由」を語り、志望動機では「前の会社の愚痴」を話してしまう、というチグハグなことが起こります。
僕の一言(最初は全部ごちゃ混ぜだった話)
僕が初めて転職活動をしたとき、正直なところ、この三つをきちんと区別できていませんでした。履歴書の退職理由欄には「キャリアアップのため」とだけ書き、職務経歴書には何となく似たような文章を少し長くして書き、面接では「前の会社では裁量が少なくて…」と愚痴半分で話してしまっていたんです。
ある面接で、面接官から「キャリアアップとおっしゃっていましたが、具体的にどういうキャリアをイメージされているのですか?」と聞かれたとき、うまく答えられませんでした。正直なところ、前の職場への不満がメインで、「キャリアアップ」という言葉を、ちょっとカッコつけた建前として使っていただけだったんですよね。
そのとき、面接官が少しだけ首をかしげて「本当のところは、前の会社が合わなかったということですか?」と優しく聞いてくれました。その瞬間、自分の中でごちゃごちゃになっていた三つの「理由」が全部バレた感じがして、かなり恥ずかしかったのを覚えています。
この経験から、「退職理由は事実」「転職理由は自分の変化」「志望動機は未来」と分けて考える大事さを痛感しました。ここが整理できるだけで、履歴書・職務経歴書・面接で話す内容が一気にスッキリします。
履歴書では「短く、でも何を大事にしているかが伝わる」レベルを目指す

履歴書の退職理由欄は、スペースがかなり限られています。ここに長々と気持ちを書く必要はありません。ただ、「一身上の都合により退職」とだけ書いてしまうのは、少しもったいないことも多いです。
企業側から見ると、「どんな環境なら長く働いてくれそうか」「どんな働き方を望んでいる人なのか」を知りたいのに、「一身上の都合」だけでは何も分かりません。そこで、二行から三行くらいでかまわないので、「何を見直したくて転職しようと思ったのか」だけは書いておくと、ぐっと伝わりやすくなります。
たとえば、ワークライフバランスを整えたい場合であれば、「長時間労働が続き、今後の働き方を見直したいと考えました。ワークライフバランスとスキルアップの両立ができる環境を求め、転職を決意いたしました。」のような書き方ができます。ここまで書いてあると、「この人は働き方と成長のバランスを大事にしているんだな」ということが、採用担当にも伝わります。
ポイントは、感情的な言葉をそのまま書かないことです。「ブラックだったから」「人間関係が最悪だったから」「給料が安すぎてやっていられないから」という言い方は、そのまま紙に書くとかなりきつく響きます。意味として必要であれば、「長時間労働が続き」「コミュニケーションの機会が限られており」「成果と報酬の結びつきが弱く」といった言い換えを使い、自分が何を大切にしたいのかに焦点を移していきます。
僕の一言(「一身上の都合」を卒業したとき)
僕も最初の転職のときは、履歴書に「一身上の都合により退職」とだけ書いていました。理由を書くのが怖かったのと、変なことを書いてマイナスになるくらいなら、無難にしておいた方がいいと思っていたからです。
あるとき、転職エージェントの担当者に履歴書を見せたら、「この一文だと、企業側は何も分からないんですよね。もし差し支えなければ、もう少し具体的に書いてみませんか?」と言われました。正直、ちょっとドキッとしました。「本当の理由を見せるのが恥ずかしい」という気持ちもあったからです。
担当者と話しながら、「長時間労働で体調を崩しかけたこと」「このままでは勉強する時間も取れず、スキルが伸びない不安があったこと」を少しずつ言葉にしていきました。最終的に、「働き方を見直し、健康面とスキルアップの両立ができる環境を求めて転職を決意した」という表現に落ち着きました。
この一文を履歴書に入れてから、面接での会話が明らかに変わりました。「長時間労働が続いていたと書かれていますが、そのときどのように体調管理をされていたのですか?」「スキルアップのためにどんなことをされていたんですか?」といった、前向きな質問が増えたのです。「一身上の都合」で隠していたときより、むしろ話しやすくなりました。
職務経歴書では「ストーリー」と一緒に転職理由を語る

職務経歴書は、履歴書に比べてじっくり読まれることが多い書類です。ここでは、単に「辞めた理由」を書くのではなく、「どんな仕事をして、どんな課題を感じ、その結果として転職を選んだのか」というストーリーを見せる場だと考えた方がうまくいきます。
先ほどの例のように、営業職からIT企業のインサイドセールスに転職したい場合を考えてみましょう。前職では個人向け営業として新規開拓を担当していた。そこで、アナログな営業スタイルが中心で、デジタルツールを活用した効率的な営業活動に課題を感じるようになった。自分なりにオンラインセミナーや書籍で勉強するうちに、データを活用した営業を本格的にやってみたくなった。そこで、IT業界でインサイドセールスとしてキャリアを築こうと決意した――という流れです。
このように、職務内容と転職理由が一本の線でつながっていると、読み手は「ああ、この人はちゃんと考えて転職しようとしているんだな」と感じます。逆に、職務経歴書では「デジタルマーケティングに興味があります」と書いておきながら、転職理由には「人間関係が合わなかったため」とだけ書いてしまうと、「どちらが本音なんだろう?」とモヤモヤした印象になります。
自己PRやキャリアプランとのつながりも大事です。自己PRでは「今、これができます」と伝え、転職理由では「今の環境ではここに限界を感じました」と伝え、キャリアプランでは「だからこれからはこういう方向に伸ばしていきたいです」と伝える。ここまで通せると、書類全体が一本のストーリーとして読めるようになります。
僕の一言(「転職したい理由」と「やりたいこと」がバラバラだった話)
僕が二回目の転職を考えていたころ、まさにこの「バラバラ問題」にハマっていました。職務経歴書には、「データを使って改善していく仕事に興味があります」と書いていたのに、転職理由のところには「将来性の不安から」とだけ書いていたんです。
ある企業の面接で、面接官が職務経歴書を見ながら「将来性に不安を感じられたと書かれていますが、それは事業の面でしょうか。それとも、ご自身のキャリアの面でしょうか」と聞いてきました。そこで僕は、「会社の将来性に不安があって…」と答えたのですが、面接官の表情が少しだけ曇ったのを覚えています。
面接のあとで改めて書類を読み返してみると、「データを使って改善していく仕事がしたい」という前向きな希望よりも、「会社の将来性が不安」という後ろ向きな理由のほうが目立ってしまっていました。「そりゃ、印象良くないよな」と自分で納得してしまいました。
そこで、転職理由の部分を書き換えました。「事業の将来性に不安を感じた」という一文を、「データを活用したサービス開発に十分に取り組めず、自分のキャリアの伸ばし方に不安を感じるようになった」に変え、そのうえで「データを武器にした改善に挑戦できる環境で働きたい」と続ける形にしました。
この書き方に変えてからは、面接官の質問も変わりました。「どんなデータを見ていたんですか?」「今後はどんなサービスに関わってみたいですか?」といった、前向きな会話が増えていきました。転職理由と「やりたいこと」をちゃんとつなげるだけで、こんなに受け止められ方が変わるんだと、かなり驚きました。
面接では「本音をすべてぶつける」のではなく「本音を整理して伝える」

面接になると、書類よりもさらに生々しい話になります。「前職を退職された理由を教えてください」「転職を考え始めたきっかけは何ですか」といった質問は、ほぼ確実に聞かれますし、「もっと本音の部分を教えてください」と一歩踏み込んでくる面接官もいます。
ここで大切なのは、「本音を全部さらけ出すこと」がゴールではない、ということです。面接は友達に愚痴を聞いてもらう場ではありません。本音をベースにしつつも、それをどう整理して、どういう順番で伝えるかを考える必要があります。
基本の流れは、最初に結論を短く話し、次にその結論に至ったエピソードを一つだけ紹介し、最後に「だから今はこう考えている」「だからこそ次はこういう環境で働きたい」と未来の話で締める、という三段構成です。
たとえば、人間関係がつらかったケースであれば、「上司とのコミュニケーションで行き違いが続き、自分の意見を活かしづらい状況があったためです」という結論を最初に伝えます。そのあとで、「改善提案をしてもなかなか受け入れられず、会議でも意見交換の場が少なかった」と事実を一つエピソードとして話します。そして最後に、「その経験から、自分はチームで意見を出し合いながら仕事を進める環境のほうが力を発揮しやすいと分かりました。今後は、改善提案を歓迎してくれる組織で働きたいと考えています」と未来の話につなげます。
このように、ネガティブな事実をきっかけにしつつも、「自分は何を大事にしたいのか」という価値観と、「だから今はどう行動しているのか」という現在進行形の部分をセットで話すと、前向きな印象になります。
僕の一言(ネガティブ質問の地雷を踏み抜いたとき)
先ほども少し書きましたが、僕は一度、「前職で一番つらかったことは何ですか?」という質問に対して、大きく地雷を踏み抜いた経験があります。そのときの僕は、心のどこかで「ここは本音をぶつけた方が評価されるんじゃないか」と勘違いしていました。
そこで、「残業が多すぎて、家に帰るのがいつも終電で…」「評価も曖昧で、どれだけ頑張っても給料がほとんど変わらなくて…」「上司とも合わなくて、ミスがあると全部こちらのせいにされて…」と、感情たっぷりに話してしまったんです。今思えば、完全に「愚痴モード」でした。
面接官は最後までうなずきながら聞いてくれましたが、最後に「ありがとうございました。応募書類から感じていた前向きさと、少しギャップがありました」と静かに一言だけ伝えてくれました。そのとき、「しまった」と強烈に反省しました。
冷静に考えれば、面接官が知りたかったのは、「どれだけつらかったか」ではなく、「その経験から何を学んだのか」「自分はどう変わろうとしているのか」という部分だったはずです。そこを話さず、ただ感情をぶつけてしまった時点で、僕は面接の目的から完全に外れてしまっていたわけです。
それ以来、ネガティブな質問には、「事実」「自分の反省」「今の工夫」という順番で答えるようにしました。たとえば、「残業が多くてつらかった」という話であれば、「当時は仕事の進め方にも改善の余地があり、結果的に自分も残業を増やしてしまっていた部分があります。今は、タスクの優先順位づけや、人に早めに相談することを意識しています」といった形です。
この答え方に変えてからは、「ネガティブな話題なのに、ちゃんと前を向いているんだな」という反応をもらえることが増えました。ネガティブな経験そのものが悪いのではなく、それをどう整理して話すかが評価される、ということを身をもって学びました。
転職理由と志望動機が「かぶる」問題をどう解決するか

多くの人が悩みがちなのが、「転職理由と志望動機が同じような内容になってしまう」という問題です。たしかに、どちらも「仕事に何を求めるか」を話すので、内容が似てくるのは自然なことです。
ここで意識したいのは、転職理由では「理想と現実のギャップ」を説明し、志望動機では「そのギャップを、なぜこの会社なら埋められると思ったのか」を説明する、という役割の違いです。
たとえば、「チームで意見を出し合える環境で働きたい」という希望があるとします。転職理由では、「前職ではトップダウン型の文化が強く、改善提案をしてもなかなか反映されないことから、チームで意見を出し合いながら仕事を進める環境で働きたいと考えるようになりました」と話します。
一方、志望動機では、「御社の〇〇という制度や、社員インタビューで語られていた意見交換の文化を知り、自分が求めている『チームで意見を出し合う働き方』を実現できると感じました」と具体的に結びつけていきます。
同じ「チームで意見を出したい」というテーマでも、「今まで」と「これから」のどちら側を話しているのかで、扱う内容は微妙に変わってきます。この違いを意識しておくと、「何となく同じことを言っているだけ」に見られなくなります。
転職サイト・エージェントでは「本音の7割」をイメージする

最後に、履歴書や面接とは少し違う場面として、転職サイトやエージェントに登録するときの「転職理由」の書き方にも触れておきます。ここでは、企業に直接見せる書類よりも、もう少し本音寄りで書いても大丈夫な場合が多いです。
とはいえ、ここでも感情のまま書いてしまうと、担当者が企業に内容を伝えにくくなってしまいます。イメージとしては、「本音100%のうち、7割くらいまでを丁寧な言葉にして書く」くらいがちょうどいいと感じています。
たとえば、心の中では「上司が理不尽すぎて限界だった」と感じていたとしても、「上司とのコミュニケーションのスタイルにギャップを感じ、自分の意見や提案を活かしづらいと感じていました」といった言い換えを使います。そのうえで、担当者との面談では、「実はこういう具体的な出来事がありまして…」と、もう少し踏み込んだ話を口頭で伝える、という使い分けができます。
エージェントは、あなたの味方であり、企業との通訳役でもあります。いきなり企業に見せる文章として完璧に整える必要はありませんが、担当者が「なるほど、こういう価値観で会社を選びたい人なんだな」と理解できるレベルまでは整理しておくと、お互いにやり取りがしやすくなります。
まとめ:転職理由は「自分のコンパス」を言葉にする作業

ここまで、履歴書・職務経歴書・面接・転職サイトそれぞれで、どこまで転職理由を話せばいいのかを見てきました。少し長くなりましたが、共通しているのは、「本音を全部ぶつけるのではなく、本音を整理して相手に伝わる形にする」という姿勢です。
転職理由を言葉にする作業は、正直なところ、楽なものではありません。自分の弱さも、上手くいかなかったことも、悔しさも、全部テーブルの上に並べることになるからです。途中でノートを閉じたくなる気持ちも、何度も湧いてくると思います。
それでも、そこから逃げずに言葉にしていくと、不思議と「自分の中の一本の軸」のようなものが見えてきます。自分はどんな環境だと頑張れるのか。逆に、何をされるとつらいのか。それでも、どんな価値観だけは手放したくないのか。その軸がはっきりしてくると、転職活動そのものが少し楽になりますし、転職したあとの迷いも減っていきます。
あなたがこれから書く転職理由も、単なる「辞めるための言い訳」ではなく、「これからどう働いて、どう生きていきたいのか」を一度立ち止まって考えた結果として、ゆっくり言葉にしてみてください。その文章は、企業に出すためだけのものではなく、これからの自分の選択を支えてくれる、あなただけのコンパスになってくれるはずです。


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